『ブラックボックス』

作 市田ゆたか様



【Ver 4.5】

「よし準備ができたぞ。待機モードを解除しろ」
校長が言うとF3579804-MDは目を開けた。
「ピッ、命令を認識。待機モードを解除します」

「これから、テストとして紅茶屋に行ってもらう。まず茶葉を買って、それから紅茶を入れるレッスンを受けるんだ。店の場所はすでにインプット済みだ。ナビゲーションシステムにしたがって行動しろ。行っておくが、今度逃げ出したらスクラップだからな」
「わかってるわよ。ナビゲーションって…ピッ、経路検索します。駅番号G14より乗車し、G03で下車します。出口5を出て左折し、50メートル進んだ信号を横断。さらに50メートル進んだ道路の右側のビルの地下一階です」
F3579804-MDはそう言って歩き出した。

「お、またお前か。今度はどこへ行くんだ」
出口の守衛室で警備員が声をかけた。
「私は、カスタムメイドロボットF3579804-MDです。ご主人様のお使いが正しく努められるかどうかのテストのため茶葉を購入に向かいます」
「通達どおりだな。よし、行っていいぞ」
警備員はドアのロックを解除した。
「ピッ、GPS受信、ナビゲーションにしたがって移動します。レベル1の行動制限が適用されます。まずは路地を出て最初の交差点を左ね」
F3579804-MDは電子頭脳に伝えられた情報に従って歩き出した。
「ここを左…、もし右に行ったらどうなるのかしら」
そういうと、右に向かって歩きだした。
100メートルほど歩いたところで、F3579804-MDは歩みを止めた。
「ピッ、ルートを外れました。レベル2の行動制限が適用されます」
無表情にくるりと向きをかえて、元きた道を引き返した。
「ピッ、ルートに戻りました。レベル1の行動制限が適用されます。メイドロボらしくない行動をしてしまったわ。今はスクラップにされないために、買い物をちゃんと済ませて、あたしがメイドロボとして優秀なところを校長…ピッ、言語中枢微調整…仮ご主人様…に見せ付けてやるんだから」

道路を直進し、地下鉄の入り口から階段を下りて地下に入った。
「ピッ、GPSが受信できません。自律測位モードに切り替えます。駅構内データを展開。改札口の位置を確認しました」
人々が次々にカードをかざして改札口を通過していく。
F3579804-MDは、メイド服のポケットからカードを取り出して改札口を通過した。
「ピッ、乗車口確認。三両目第二扉で待機します」
そう言ってホームに立った。
しばらく待っていると電車が到着した。
「ピッ、列車種別、行き先を確認。乗車します」
機械的な動きで電車に乗り込んだ。
「ちょっと戸惑ったけど、これなら迷うことはないわね。早くこの機能を使いこなさなきゃ」
そう言って、座席に座ろうとした。
ゆっくり腰を下ろす途中で動きが止まり、フィルムの逆回しのように直立姿勢になると動きを止めた。
「ピッ、車内で着席することは禁止されています。…そうよね。今のあたしは人間に奉仕するロボットなんだもの。立っている人がいるのに休んでいちゃおかしいわよね。疲れない体でよかったわ」
ドアが閉まり、電車が動き出した。
「ピッ、オートバランサーを起動します」
発車時の大きなゆれやカーブを曲がるときの遠心力にもF3579804-MDは倒れることなく直立姿勢を保っていた。



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